肉の名は。

遥か先週末、土曜夜の彼方。

 

男は腹をすかしていた。夜のとばり9じまわり。

この日は仕事が忙しく、事務仕事が終わらず珍しく残業をしていた。

集中力が切れてしまい、明日に回そうとパソコンの電源を落とした。

 

パポパポ~ン。10年前から聞きなれたウィンドウズのシャットダウンサウンドと

連動して僕の腹もなった。

ずっと座っていたせいか臀部が凝り、階段を登るのが億劫だった。

 

キッチンに行き、鏡張りの冷蔵庫に疲れた自分の姿が映ると、無性に肉が食べたくなってきた。

男は冷蔵庫をあける必要もなく食べたいものが決定してしまった。

 

その瞬間、どんよりと落ちた夜の静かな時間は軽快なサウンドとともに早回しで出かける準備を急がせるのだった。

 

                 肉の名は。

                ~your meat~

                    2.4.SAT.night

 

♪肉の全全前部から僕は、食をさがしはじめたよ

 そのぶきっちょな食べ方をめがけて やってきたんだよ

 

 肉の全然全部なくなって スミスミになったって

もう迷わない また一から肉焼きはじめるさ

むしろ0から また注文をはじめてみようか~

 

 

寒空の下、静まり返った夜の道を進み、

歩くたびに呼応するかのように出ては消え出ては消えを繰り返す真っ白な息は

目の前に広がる黒とシックなコントラストをにじませていた。

 

疾走感のあるサウンドをBGMに気が付けばその店に到着していた。

男が週に一回は現れる塚口のとても美味しい店の一つでお気に入りの『プコチーニ』だ。

カウンター20席ほどの小さなお店だが、店内は明るく、かつ落ち着きがあって、

店主がこだわる三田牛&ホルモンはとても美味しく、一人客にも色々と対応してくれるとてもリーズナブルなお店だ。一人で行く店は数あれど近場では男はとてもお気に入りである。

 

ガラガラ、、ガラス張りの扉をあけると、

『いらっしゃいませ』マスターのいつもの笑顔がそこにはあった。

飲食店においてはこの一発目のいらっしゃいませで50%以上が決まってしまう大切な言葉、いやお客様が以降2時間強気持ちよくあれるかどうかを決める魔法の言葉だということは男も元飲食でアルバイトたちに最も口すっぱく言ってたことだからわかっていた。

この店にはそれがある。だからこそ何回来ても毎回気持ちよくあれるのだ。

 

男は空いていれば8割の確率で座る扉から入ってふたつめの席のカウンターに腰かけた。

『お飲物どうしましょう』

なんてったって、もちろん一杯目は『生』だ。

男は≪酒が嫌い≫という基本理念のもとに酒を飲むことが大好きだ。

むろん弱くもない。ほとんどのお酒を飲むことができる、、、が、やはり一杯目は生がうまい!

 

『山口さん、お疲れ様です』と共に運ばれてきた黄金の輝きと真っ白な煌めきは、

昔から風の谷に伝わる言い伝えのように男の心をうった。

 

そのもの青き衣をまといて金色の野に降り立つとき

失われし大地との絆を結びついに人々を青き清浄の地へ導かん

 

ババ様、、、僕に風の谷を救うことはできるでしょうか?そんな想像を膨らませながら一杯目の生に口をつけるのでした。

 

うまい。。。。。

お酒を飲む人間にとってお店に入って2つめの感動はここにある。

≪ビールがうまいかどうか≫だ。

 

・グラスは冷えているか?

・グラスに気泡はついていないか?(気泡がついていると油分にさらされているので

    ちゃんと洗浄されていない可能性がある)

・泡がきめ細やかであるか?

ちゃんろできているビールの泡は時間がたっても泡が崩壊するおとはない。

 

男は2回目の感動を覚えた。やはり裏切らない。

そんな感動に酔いしれていると、いつものようにマスターからお声がかかる。

『お待たせしました~何しましょう~』

といっても僕が食べるお肉はだいたい決まっている。

 

ウルテ、ハラミすじ、チョリソー、赤身肉、サイドでキムチとミニサラダ

まれに違うオーダーをしてマスターを惑わせるのも男のささやかな楽しみの一つだ。

 

オーダーを終わらす頃には一杯目のビールはなくなり、2杯目突入するのもいつも通りのスケジュールだ。

そして、運ばれてきた2杯目の生を半分くらいまで飲んだ頃、マスターの説明とともに

お肉が運ばれてくるのだ。

 

『マスター ありがとうございます』

と言葉に出すと、≪マスター≫という響きだけでいつもスターウォーズの世界に男は現実世界を重ねていくのであった。

 

男は肌色に光るチョップスティックセイバーを取り出した

ちなみに2つに割ることができるので二刀流が可能である。

溶岩のように熱々に熱された鉄板の上はスターウォーズ episode3 の最後、

マスターオビワン・ケノービとマスターアナキン・スカイウォーカーの師弟対決を

彷彿とさせる。

さあ、今夜、マスターアナ男・スカイウォーカーは肉界のフォースにバランスをもたらすことができるのか?それとも、肉を焼きすぎて暗黒面に落ちてミート・ベイダーとなってしまうのか?

と、まあ一人で飲みに来る時もありもしない現実を妄想しながら楽しむのが男の幸せな時間の過ごし方のひとつだ。

 

そんな事を考えながら熱々の鉄板に肉やホルモンを乗せて焼けるまでビールを楽しんでいると、、、、かすかに声が聞こえてくる

 

『男さん、男さん』  ん?女の声???

『男さん、男さん』  ん?今度は男??

 

ど、どこだ、、

『こっちだハラ~』

『こっちだウルテ~』

f:id:MONCHI:20170206183544j:plain

f:id:MONCHI:20170206183606j:plain

き、き、貴様らは~!!!!!なんか東京タラ○バのやつらみたいやんけ!

男は目を疑った!!!

おいおい、俺はタラレバ言ってないぞ!男はそう言いながらも自分の人生を振り返った。

 

『一人で食べてて楽しいかハラ~?』

うるさい!

『一人で飲みながら妄想ふくらませて楽しいウルテか?』

うるさい、お前らも妄想の産物だろが!!!!男は残った生を一気に飲み干して

3杯目に赤ワインを注文した。

ここからは男は赤ワインしか飲まないと決めている。

『肉のこともたいしてわかっていないのに、肉には赤ワインとか勝手に思ってるはらか?』

うるさい、雰囲気でいいんだよ!

『味じゃなくて、噛みごたえだけで俺を選んだウルテか~?中身も見ろよ~』

うるさい、お前は噛みごたえ売りじゃろが!

 

男はおそらく他のお客様には見えていないであろう奴らと心の口論を繰り返した。

他のお客様は全員カップル。僕は自分の心と戦っていた。

 

男は決心した!チョップスティックセイバーを右手に2本持ち、巧みに操り、奴らを

タレの中にぶち込み口の中へ運んだ。

『男さんやめてハラ~』

『男さん暴力はだめウルテ~』

 

度々、うるさい~!!!男は心の中で叫び一気に奴らを口の中でごちゃ混ぜにしてやった。

『僕たち』『私たち』『食べられてる~』

 

ふふふ、俺に噛まれて噛まれて肉酒にでもなってしまいなさい。

もちろん出さずに飲み込むけどね。男は得意げに奴らに語りかけながら、

赤ワインで一気に流し込んだ。

 

May the force be with you!(フォースがともにあらんことを)

肉さんたちに敬意を払いつつも続けて食事を続けることにした。

 

今夜の肉の名はウルテとハラミすじ、、、覚えておいてやるぜ。

『すいません、赤ワインおかわりで』男はささやかな幸せを感じつつも

また新たな肉を鉄板の上に乗せ食していくのだった。

 

深夜0時をまわり5杯目の赤ワインも飲み終えたころ、男は帰路につくことを決めたのだった。

 

お会計をすませ、お店を出ると、マスターがいつものように外まで挨拶に来てくれた。

『山口さん、ありがとうございます』

この言葉があるからまた来たいと思うのだ。

 

男は、また来ますと寒さに肩がすくみながらも会釈をして歩み出した。

 

そんな寒い夜の不思議な出来事だった。

f:id:MONCHI:20170206183624j:plain