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断る勇気

思い出

人生において人は白黒つけなくてはいけない瞬間に何度も出会うだろう。

 

例えば、

服を買いに行って、店員さんにおすすめされた時。

 

投資マンションの営業の電話がかかってきた時。

 

彼女が作った料理を食べて、「美味しい?」と聞かれた時。

 

人生には必ず断らないといけないときがある。

 

男もそんな決断に何度もせまられたときがある。

 

時に思い出せるのが≪バレンタイン≫だ。とあるデパートでしているバレンタイン商戦のコーナーの横を通ったときに思い出した。

バレンタインが訪れるたびに思い出す最もバレンタインらしく、そして男史上最も調子にのった一日、さらには男史上最も何も手につかず悩んだ一日、そして多くの女子を瞬時に敵にまわした一日。

 

バレンタイン、今では「友チョコ」、「ファミチョコ」、「自己チョコ」、「強敵チョコ」、、、バレンタイン商戦のために企業が売り上げをあげるために仕組んだ戦略とは言え、もらえない人、あげる相手のいない人の逃げ道になっていないだろうか、、、、

 

そんなことを思いながら、そんな逃げ道がなかった中学生時代のその苦い思い出が脳裏をよぎった。

 

朝、6時に起きた。幼き男は中学でサッカー部に入ってからというもの変わりなく朝練のためにその時間に起きていた。

いつもと変わらぬ朝。のように思えたが、、、、無駄にドキドキして目覚めた。

そう、今日は「バレンタイン・デイ」。

もらえる予定?あるわけない。相思相愛の人?いるわけない。告白される予定?一生ないかもしれない。でも中学校には女の子が150人くらいいる。

 

「いやいや、男、よく考えろ!俺はサッカー部、いちよモテる系部活の一人。試合には女の子たちがよく応援にきていた(俺の応援団ではないが)1/150くらいいるはずだ。いやいや、待てよ、中学どころか、毎朝僕が校舎の外を走っている姿を他校の生徒が見て渡してくるかもしれない。おいおい、待てよ、それどころか、家を出たときポストにすでにインされてるかもしれない。」

 

バカな男は1センチの可能性にかけていた。

しかし、無駄にドキドキしていた。朝食は喉を通らず、ほとんど食べずに7時に家を出た。

ガチャ、、「いってきます~」

さあ、男の戦いが今幕をあけた。

 

第一ステップ、、、ポスト、、、、ない。

通学途中、、、、誰にも会わない。

 

朝練、、、、男だらけのバカな会話が始まった。

バカだ本当にバカだ。俺が一番もらえる。なんていうしょうもないこぜりあい。

 

しかし、男は強がって言った。

「おいおい、俺はバレンタインなんて興味ないから。チョコ?おれ、チョコ興味ないし。さあ、そんなバカ話いいから走るで」

男は猛烈に強がった。14歳にして最強に強がった。しかし、誰よりもチョコを欲しがったのは他でもない、この男だ。

 

毎朝、4キロ。男たちはもくもくと走り続けた。しかし、男は他に朝練をしている女子の部活の女の子をその日だけは異様に見ていた。

誰だ~俺にチョコをくれるのわ~。男はくだらぬ妄想を誰よりもふくらませながら

いつも以上に並々ならぬスピードで走り続けた。

 

そんな妄想だらけの朝練を終え、その日は汗も必要以上にふき、とにかく綺麗な体にした。

そして、部室を出て下駄箱に行って靴を履き替えているときに事件は起こった。

 

「男君、おはよう。」それは学年で1、2を争う可愛い女の子だった。

何度か会話したことはあるが朝挨拶されたのは初めてだった。

男の心臓は最高にバクバクと鼓動をうった。

 

もしかして

もしかして

もしかして

 

「男君、今日学校終わったら教室にきて、じゃあね」

そう言うと、彼女は気持ちのいいシャンプーの香りを漂わせながら僕の横を通りすがった。

 

え?まさか?きた~~~~!!!!!!!!!!!!!

男は普段は使わないスタンド。スタープラチナを使って時を止めて最高のガッツポーズをして1秒後何もなかったかのように廊下を歩き始めた。

 

1限目 男は授業など聞いていなかった。

2限目 男はノートにその女の子の名前を幾度も書いていた。

3限目 男は告白された際のチョコの受け取り方を研究していた。

お昼  男はごはんが喉を通らなかった。そして、男は弁当も食べずに廊下を歩いていると、女の子から声をかけられた。

「男くん、待って」振り返るとそこにはクラスで一番キレイ、しかし、どこか可憐で吹奏楽部でフルートを吹くような女の子だった。

 

何?二人目????なになに?

「男くん、今日、学校終わってから暇?よかったら学校終わったら教室にきて、待ってるから!!!」

 

え~~!!!男に奇跡が起こった。二人目!!!!!モテキ来た~!!!!!

男は発狂した。もちろんスタープラチナを使って時間を止めて発狂した。

 

もういいよ!サッカーで点なんて決める必要ないよ!だって、俺は14歳にしてすでに人生という2ゴールを決めたんだから!男はもう一度時間を止めてカズダンスを踊った。フォ~~!!!!

男はトイレに走って、トイレの鏡で自分を見た。なんやねん、俺、モテるやんけ!!

男はしばらく決め顔の練習をした。

 

しかし、男はすでにうれしいを通り過ぎて気持ちが悪かった。

こんなにモテていいのか?この先モテないんじゃないのか?ダイジョブか、俺の人生?

大丈夫だ!男よ、だって、もうモテる必要ないから。どちらかと結婚すればいいのだ。

 

4限目 男は女の子二人から同時に告白される絵を描いていた。

5限目 男は気が付いた。二人とも学校終わりに教室?2対1?同時に告白?

    どちらかを断らないといけない?なんて罪なんだ。どうすればいいんや。

    やばい、どうしよ。別々の場所にしてもらわないと。

    パニクッた、とにかく授業どころではない

 

清掃時間 やばい、声をかけにいかないと!いや、できない、こんなみんながいる場所

      で声などかけられない。俺たちのこれからの関係がバレてしまう。

 

あ~~~!!!!!!!どうすればいいんだ。

なんて贅沢な悩みなんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

が、しかし、刻一刻とその時がせまっていた。

男は部活に遅れていくことを伝えると放課後の教室に向かった。

 

いつも歩いている廊下がこんなに長いとは、、、歩け歩けど廊下の一番奥にある自分の教室にたどり着かないなんて。

もう何時間歩いただろうか?おそらく三日は歩いたであろう末にたどり着いた教室。

扉の窓ガラスから中を覗き込むと女の子が二人いた。

 

言わんこっちゃない!!!だから手を打つべきだったんだ!!

修羅場だぞ~これ!!!!

ガラガラガラ~扉を開けると今まで経験したことがない空気の重さがそこにはあった。

どうしよう、どちらを選べばいいんだ?断った女の子のほうが泣いたらどうしたらいいんだ?抱きしめるのか?そのあともう一人のほうはどうしたらいいのか?一緒に帰るのか?どうすれば????

男はバレンタイン告白、二人同時告白、修羅場、14歳という若さで三冠を手に入れた。大物人生が待っていることは間違いなかった。

 

「ごめんなさい!!!!二人とは付き合えません。」言った。男は言った。

 

これしかなかった。どちらからが泣くなんてだめだ。男が選んだ最上の決断だった。

人生とは決断の連続だ。男が人生で下した最上に重い決断だった。

 

男は深々と頭をさげた。

すると、どちらかの一人が声を発した。

「なに言ってるん?男くん、勘違いしてる?」

 

(・・?え?

 

と、教室の端のほうからもう一人女の子が出てきた。二人しか見えてなくてまったくその存在に気が付かなかった。

 

え????どゆこと?

 

クラスいち可愛い女の子が言った

「A子が男くんのこと好きなんやって」

学年いち可愛い女の子が言った

「チョコ作って来たらしいから、、ちゃんと話聞いたり」

 

で、だれ?見たことない。いや、その子も可愛いと思う、でもねでもね、何時間も悩み続けて期待し続けた結果、、、、、、、

 

ラーメン食べたくて店に入ったのにうどん出された感じ。

 

男はテンパった。最上にテンパった。

 

そして、3人目は言った「男くん、好きです。付き合ってください」

と、銀色のハートの入れ物に入った中身はチョコであろう。

 

で?君は誰?男が悩んでいると、、、、、

横の可愛い二人が言った

「どうするん、男くん、付き合うん?付き合わないの?早く言いや」

 

いや、誰?この子?

男はてんぱった。

 

しかし、答えが出ない。どうしたらいいんだ?

攻められる男、攻める女二人、その間に立たされて泣き出す三人目

 

男は気が付けば、教室を出て廊下を走っていた。

 

そう逃げたのだ。とにかく逃げたのだ!!

断るだけが勇気じゃない!!!逃げるのも勇気!!!!!!

 

男は右手にチョコ、左手に勇気をもって走った。

男は平然と部活をこなし、バレンタインという日がなかったことにした。

 

寝て記憶を消すという手段を使った。

そして、次の日、学校にいくと、忘れた記憶を友たちによって呼び戻された。

そうすでに僕の悪行は全校に知れ渡っていたのだ。

男どもからはイジられ、女たちからは「最低~」の冷たい言葉をいただいた。

 

逃げるは恥です、役に立たん。

 

ふ、男は微笑を浮かべながら、一年に一度このバレンタインの日にあの苦い一日を思い出すのであった。

やはり、バレンタインとはこれくらいの男女のハラハラ感がなくてはならないのだ。

そう、バレンタインとはチョコレートを巡る一年に一度の男女バトルである。

 

忘れるな!!!自分へのチョコ?

そんなもん普段買え!!あえて14日に買うとむなしいぞ!!!

 

14日が今年もやってくる。

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肉の名は。

遥か先週末、土曜夜の彼方。

 

男は腹をすかしていた。夜のとばり9じまわり。

この日は仕事が忙しく、事務仕事が終わらず珍しく残業をしていた。

集中力が切れてしまい、明日に回そうとパソコンの電源を落とした。

 

パポパポ~ン。10年前から聞きなれたウィンドウズのシャットダウンサウンドと

連動して僕の腹もなった。

ずっと座っていたせいか臀部が凝り、階段を登るのが億劫だった。

 

キッチンに行き、鏡張りの冷蔵庫に疲れた自分の姿が映ると、無性に肉が食べたくなってきた。

男は冷蔵庫をあける必要もなく食べたいものが決定してしまった。

 

その瞬間、どんよりと落ちた夜の静かな時間は軽快なサウンドとともに早回しで出かける準備を急がせるのだった。

 

                 肉の名は。

                ~your meat~

                    2.4.SAT.night

 

♪肉の全全前部から僕は、食をさがしはじめたよ

 そのぶきっちょな食べ方をめがけて やってきたんだよ

 

 肉の全然全部なくなって スミスミになったって

もう迷わない また一から肉焼きはじめるさ

むしろ0から また注文をはじめてみようか~

 

 

寒空の下、静まり返った夜の道を進み、

歩くたびに呼応するかのように出ては消え出ては消えを繰り返す真っ白な息は

目の前に広がる黒とシックなコントラストをにじませていた。

 

疾走感のあるサウンドをBGMに気が付けばその店に到着していた。

男が週に一回は現れる塚口のとても美味しい店の一つでお気に入りの『プコチーニ』だ。

カウンター20席ほどの小さなお店だが、店内は明るく、かつ落ち着きがあって、

店主がこだわる三田牛&ホルモンはとても美味しく、一人客にも色々と対応してくれるとてもリーズナブルなお店だ。一人で行く店は数あれど近場では男はとてもお気に入りである。

 

ガラガラ、、ガラス張りの扉をあけると、

『いらっしゃいませ』マスターのいつもの笑顔がそこにはあった。

飲食店においてはこの一発目のいらっしゃいませで50%以上が決まってしまう大切な言葉、いやお客様が以降2時間強気持ちよくあれるかどうかを決める魔法の言葉だということは男も元飲食でアルバイトたちに最も口すっぱく言ってたことだからわかっていた。

この店にはそれがある。だからこそ何回来ても毎回気持ちよくあれるのだ。

 

男は空いていれば8割の確率で座る扉から入ってふたつめの席のカウンターに腰かけた。

『お飲物どうしましょう』

なんてったって、もちろん一杯目は『生』だ。

男は≪酒が嫌い≫という基本理念のもとに酒を飲むことが大好きだ。

むろん弱くもない。ほとんどのお酒を飲むことができる、、、が、やはり一杯目は生がうまい!

 

『山口さん、お疲れ様です』と共に運ばれてきた黄金の輝きと真っ白な煌めきは、

昔から風の谷に伝わる言い伝えのように男の心をうった。

 

そのもの青き衣をまといて金色の野に降り立つとき

失われし大地との絆を結びついに人々を青き清浄の地へ導かん

 

ババ様、、、僕に風の谷を救うことはできるでしょうか?そんな想像を膨らませながら一杯目の生に口をつけるのでした。

 

うまい。。。。。

お酒を飲む人間にとってお店に入って2つめの感動はここにある。

≪ビールがうまいかどうか≫だ。

 

・グラスは冷えているか?

・グラスに気泡はついていないか?(気泡がついていると油分にさらされているので

    ちゃんと洗浄されていない可能性がある)

・泡がきめ細やかであるか?

ちゃんろできているビールの泡は時間がたっても泡が崩壊するおとはない。

 

男は2回目の感動を覚えた。やはり裏切らない。

そんな感動に酔いしれていると、いつものようにマスターからお声がかかる。

『お待たせしました~何しましょう~』

といっても僕が食べるお肉はだいたい決まっている。

 

ウルテ、ハラミすじ、チョリソー、赤身肉、サイドでキムチとミニサラダ

まれに違うオーダーをしてマスターを惑わせるのも男のささやかな楽しみの一つだ。

 

オーダーを終わらす頃には一杯目のビールはなくなり、2杯目突入するのもいつも通りのスケジュールだ。

そして、運ばれてきた2杯目の生を半分くらいまで飲んだ頃、マスターの説明とともに

お肉が運ばれてくるのだ。

 

『マスター ありがとうございます』

と言葉に出すと、≪マスター≫という響きだけでいつもスターウォーズの世界に男は現実世界を重ねていくのであった。

 

男は肌色に光るチョップスティックセイバーを取り出した

ちなみに2つに割ることができるので二刀流が可能である。

溶岩のように熱々に熱された鉄板の上はスターウォーズ episode3 の最後、

マスターオビワン・ケノービとマスターアナキン・スカイウォーカーの師弟対決を

彷彿とさせる。

さあ、今夜、マスターアナ男・スカイウォーカーは肉界のフォースにバランスをもたらすことができるのか?それとも、肉を焼きすぎて暗黒面に落ちてミート・ベイダーとなってしまうのか?

と、まあ一人で飲みに来る時もありもしない現実を妄想しながら楽しむのが男の幸せな時間の過ごし方のひとつだ。

 

そんな事を考えながら熱々の鉄板に肉やホルモンを乗せて焼けるまでビールを楽しんでいると、、、、かすかに声が聞こえてくる

 

『男さん、男さん』  ん?女の声???

『男さん、男さん』  ん?今度は男??

 

ど、どこだ、、

『こっちだハラ~』

『こっちだウルテ~』

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き、き、貴様らは~!!!!!なんか東京タラ○バのやつらみたいやんけ!

男は目を疑った!!!

おいおい、俺はタラレバ言ってないぞ!男はそう言いながらも自分の人生を振り返った。

 

『一人で食べてて楽しいかハラ~?』

うるさい!

『一人で飲みながら妄想ふくらませて楽しいウルテか?』

うるさい、お前らも妄想の産物だろが!!!!男は残った生を一気に飲み干して

3杯目に赤ワインを注文した。

ここからは男は赤ワインしか飲まないと決めている。

『肉のこともたいしてわかっていないのに、肉には赤ワインとか勝手に思ってるはらか?』

うるさい、雰囲気でいいんだよ!

『味じゃなくて、噛みごたえだけで俺を選んだウルテか~?中身も見ろよ~』

うるさい、お前は噛みごたえ売りじゃろが!

 

男はおそらく他のお客様には見えていないであろう奴らと心の口論を繰り返した。

他のお客様は全員カップル。僕は自分の心と戦っていた。

 

男は決心した!チョップスティックセイバーを右手に2本持ち、巧みに操り、奴らを

タレの中にぶち込み口の中へ運んだ。

『男さんやめてハラ~』

『男さん暴力はだめウルテ~』

 

度々、うるさい~!!!男は心の中で叫び一気に奴らを口の中でごちゃ混ぜにしてやった。

『僕たち』『私たち』『食べられてる~』

 

ふふふ、俺に噛まれて噛まれて肉酒にでもなってしまいなさい。

もちろん出さずに飲み込むけどね。男は得意げに奴らに語りかけながら、

赤ワインで一気に流し込んだ。

 

May the force be with you!(フォースがともにあらんことを)

肉さんたちに敬意を払いつつも続けて食事を続けることにした。

 

今夜の肉の名はウルテとハラミすじ、、、覚えておいてやるぜ。

『すいません、赤ワインおかわりで』男はささやかな幸せを感じつつも

また新たな肉を鉄板の上に乗せ食していくのだった。

 

深夜0時をまわり5杯目の赤ワインも飲み終えたころ、男は帰路につくことを決めたのだった。

 

お会計をすませ、お店を出ると、マスターがいつものように外まで挨拶に来てくれた。

『山口さん、ありがとうございます』

この言葉があるからまた来たいと思うのだ。

 

男は、また来ますと寒さに肩がすくみながらも会釈をして歩み出した。

 

そんな寒い夜の不思議な出来事だった。

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カレーという深宇宙を知ることはNASAですら簡単なことではない

食事

男の朝は早い。

カーテンの隙間から入る薄明りで目が覚める。

見た目からは想像がつかないほど敏感なのだ。

まだ肌寒い空気の中、ゾンビのように布団から這い出て、カーテンをしっかりと締めてまた寝るというタイムループ・ワークの世界でもう何年もとらわれている。

 

解決策は夜、カーテンに隙間がないことをチェックすることだ。

敏感で繊細でありながらも鈍感で無頓着な男は今夜もそのことを忘れて静かに眠るだろう。

 

人生とはそういうものだ。

 

二度寝こそがこの世界の最高の幸せであることはおよそ世界中の人が知る周知の事実だ。『二度寝教』なるものを作れば、男は瞬く間に神になれるかもしれない。だが、すぐに金に溺れて捕まることが予想されているので男は夢の中だけで楽しむのだった。

 

それでも朝は男を二度目の目覚めへと導き、ふらついた足取りでキッチンへと向かわせるのだった。

男の朝食は決まっている。

豆乳バナナ青汁と納豆。今ならもれなくおばさんが小さい時から僕のためだけに作ってくれるサータアンダギーがもれなくついてくる。砂糖を使わずとも甘味を表現し、外はサックリ中はシットリの口当たりは30代の胃には優しい。

作り方?

聞いた事がない。いや、聞く必要がないの間違いだ。

例え同じ材料でも同じ味は出せないだろう。それはその手だからこそ醸し出せる味なのだから。知らない方が幸せな事もあるのだ。

男は基本、立ちながら朝食を食べる。 カウンターキッチンの前に広がる大きな窓から朝日を感じ、目の前の広大な田端にゆとりを見出しながら食べる朝食に意味があると考えているからだ。座っていてはこれを感じることができないのだ。

 

が、しかし、男の朝の10分の幸せを飲み込もうとする不穏なブラックホールが朝の光を飲み込み始めていた。

気が付いたときにはもう遅かった、、、男が目を向けたブラックホールの中心部分。

専門用語でいうと『特異点』にあったのは父が昨夜作ったカレーであった。

 

父はカレーという深宇宙に過去3回ほど男の監督下のもとに調査に出かけたことがあるが、今回は司令官の指示を待たずに一人で興味の赴くままに一人で小型艇に乗り込み、

深宇宙の本当の恐ろしさも知らずに無謀な旅に出てしまったのだ。

 

おかげで突如として現れたブラックホールに飲み込まれ、時間流は平行時間より低流し、ルーは水のように淀み、散りばめられた具材は旨味を失い、捕らわれて動けずにいた。

我らカレー世界における深宇宙調査部隊(CURRY SPACE INVESTIGATER)

通称:C.S.Iに配属されたルーキーパイロットにおいてはよくあることだ。

 

男はとっくに部隊を2階級特進で名誉退任し、悠々自適な朝を過ごしていたに、、、、母提督の緊急要請によって、緊急招集がかけられた、、、、、残りの人生は妻と子供たちとの暮らしに安息の日々を求めようとしたが残念ながらいないので、

オブザーバーということならとミッションを承諾した。

 

ギャラクシースパイス艦長の指揮下のもと対深カレー多目的救助戦略艦バーモント号は

地球時間ヒトマルマルマル時にカレーステーションを離陸。最高巡航速度マッハ9.8で目的地へと向かった。

『こんな簡単なミッション、あんたの出番はありませんよ、オブザーバー男さん!』艦長はそう言い放ち、副艦長のBP・ウコン中佐に指揮を任せ、自分は自室へと消えた。

どうやら男は歓迎されていないようだ。

 

しかし、男は父隊員が辿った戦略調理工程に目を通していた。

オニオン、ポテト、キャロット、チキン星団をフライパン炒め工程なしの急激なウォーター・スローイン・ドライブというエンジンを労わらないスピードを重視した走り。

 

しかも、父隊員の小型艇では耐え切れないであろう水分比率が多いキャベツ星団を通り抜けたおかげで起こってしまった水気の増加。

 

さらにいうと、カレー連合艦隊がまだ実験段階で上級士官しかその使用を許可されていないエンジン・ルー『超微細粒子フレーク型エンジン・ルー』を使った形跡がある。

通常艦艇には『固形型可割式エンジン・ルー』を搭載しているのだが、、、、

超微細粒子フレーク型エンジン・ルーは水分量の調整や粒子スパイスのコクの調整が

難しく事故起こしやすので先日も主要10か国エンジン・ルー会議『SPYCE10』においても凍結が承認されたばかりだった。

『お前にはまだ早い、、』男は父隊員の軽率な行動に腹を立て、力いっぱいの拳で壁を殴った。

 

グツグツグツグツ、、、独特の音と共に艦が振動しだした。

どうやら到着したようだ。

『か、、艦長!!』ウコン中佐がひきつった顔で自室にいるスパイス艦長を呼び出した。

ブリッジに来た艦長もまた声を失った、、『こ、これは、、』

 

無理もない、、予想はしていたが、、まさかここまでとわ。

 

シャバシャバになったダークマタールー

キャベツ星団を突っ込み過ぎたコクなきキャベツ臭

それに付け加えて、超微細粒子エンジン・ルーの副作用による水分バランスの低下に

よる水臭さ。

ん???あの淀みは、、、、ま、まさか、、、この状況を脱するために父隊員は

ソイ・ソースキャノンを使ったのか?馬鹿な!この状況であれは使えば火に油を注ぐだけ、、、、

 

『艦長!指示を!』ウコン中佐はキャリア組の初ミッション。考えもせずマニュアル通りの流れか、、、焦るのも無理はない。しかし、この状況では誰もがそうか。

『ムムムム。しかし、これは我らカレー艦隊の管轄ではないぞ。すでにこのシャバ状態を考えればスープ特務機関の管轄だろう、、、』艦長がその判断を下すのもこの状況ならうなずける。

むしろ、スープ特務機関に任せてスープとして処理する方がはるかに楽だろう。

しかし、今から地球を経っても超沸騰爆発までは間に合わないだろう。

さあ、どうする。

 

『仕方ない!時間がない!カタクリーヌ魚雷装填!』

 

やめろ~!男は叫んだ!しかし、遅かった、、、すでに発射の合図とともに戦略士官は発射ボタンを押していた。しかし、カタクリーヌ魚雷はコースをずれ爆発、艦にも甚大な被害が出た。指令室も爆発、、、、、、

男が次に目を覚ました時、状況は壊滅的だった、、、、送電線などが断線し、あちこちで火花をちらしていた。

ど、どうなったのだ、、、、男は叫んだ、『被害報告!』

『第二~第七デッキまで甚大的破損、クルー死傷者多数、、そして、、、、』

 

『なんだ?』男はウコン中佐に言い放った。

 

『艦長、、、死亡です』ウコン中佐は静かに答えた。

 

男は無言で返した。

事態は切迫している。次の階級で考えるとウコン中佐が艦長だが、この状況を彼が指揮するのは無理だろう。

もうあの作戦しかないか、、、男は腹を決めた。

『ウコン中佐!ウコン中佐、しっかりしろ!今から最後のかけに出る』

男は失ったクルー達がいない指令室を走り回り機材の調整をした。

 

『もうダメですよ、男オブザーバー。僕らはこのまま死ぬんですよ』中佐はもう戦意を喪失していた。

 

『バカ野郎!!!』男オブザーバーは中佐の胸ぐらをつかみ力いっぱい殴った。

『お前はカレー特務アカデミーで超辛×300倍LEEコースで3年の日々に耐えたのだろう!!甘口ったれるな!!星の王子様の時間は終わりだ!おれ達で成功させるんだよ、このミッションを』男の熱いまなざしに中佐の心は落ち着いた。

 

『了解しました。男、、、艦長、、指示を』

 

『わかった。第二から第七デッキを放棄。生き残ったクルーは第一デッキへ移動。

まだ戦えるクルーは指令室と武器庫に配置せよ。5分で全移動を終了後、切り離したデッキは自動爆破。警戒警報ルー発令!』

けたたましい警戒警報音とイエローライトが艦内をひしめく中、全移動は完了し、第二から第七までを切り離し、命令通り自爆させた。

『艦長、完了しました』

先ほどの意気消沈もどこへやら。今は立派な目になった中佐がそこにいた。

 

『よし、それではいくか!中佐!まずは別フライパンで用意型バター炒め使用の疑似星団チキン爆弾発射!!!続いて、オイスターソース魚雷を2文装填、発射!!さらにさらに、トウバンジャンレーザーを5分照射しろ』

 

『す、すごい!!艦長、ルー数値が深みコク値に戻りつつあります。し、しかし、ダメです、ウォーター数値が一向に改善されません』中佐が叫んだ。

 

『仕方ない、、、中佐、前クルーを連れて脱出しろ!』男

『い、いやです!バカ言わないでください。自分も艦長と一緒に』中佐

『だまれ、これは命令だ!、、、、走れ、もう時間がない。いいか、この世にはまだ未知なるカレー銀河がたくさんある。君たち若いやつらが見つけてくれ。短い時間だったがありがとう』

男はオタマを頭にあて、連合の敬礼をした。中佐も涙を流しながらオタマで返すと、走って小鍋型緊急離脱艇に急いだ。

 

男は顔色を変えた

『コンピューター、緊急離脱艇が離脱と同時に緊急プロトコル・アルファ爆破指令を30秒後に実行。軌道を5度修正して、爆発後の艦の素材であるレンコンスターチオロシとポテトオロシを同時にカレー内部に投下し、トロミ度を正常値に戻す』

 

男は艦を犠牲にしてとろみをつける気だった。

 

『緊急爆破シークエンス開始。クルーは全員退避してください!15、14、13、

12、、、、、、、、』コンピューターのアナウンスが静かに続いた

 

『さよなら愛しきカレーよ』男艦長代理がつぶやくと同時に艦は爆発した。

 

『艦長~』脱出艇から中佐は事の全てを目にした。

 

男の最前の判断により、カレースペースは正常化した。

中佐は味見スプーンナイザーでカレースペースの一部を採取した。

 

取り出したカレーを口に含んだ。

 

『うまい、、、ありがとう男艦長。最高のカレースペースです』

中佐の涙というスパイスがさらに味に深みを与えたことは言うまでもない。

 

忘れるな、カレースペースは工程と素材に合わせた下ごしらえが決め手だ。

そして、失敗しても最後までおいしさの追求をあきらめるな!

中佐は一口の中に男艦長のそんな声が聞こえたような気がした。

 

 

 

と、まあ、男は壮大なカレースペースを旅しながらカレーをリメイクし朝から一仕事終えるのでした。

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恵方巻の名づけの親はセブンイレブンだということを誰も知らない

食べ歩き

男はまるで人質が巻いたタオルを口に突っ込まれて喋れない様にされたかのごとく

その直径4センチに至るプレミアム恵方巻を口に突っ込んだまま北北西に向かって立っていた。

 

今日はそんな日本の験担ぎ的風習のひとつだ。

 

男も以前働いていた会社が運営するふぐのお店「ふく万」に恵方巻を予約していたのだ。

 

男が手に入れたのはプレミアム恵方巻だ。

 

中身はカニ、ウナギ、フグのたたきなど高級食材を贅沢にもシャリという羽毛の

上で一緒に寝かせた贅沢過ぎる逸品だ。

言うならば天皇家を丸め込んだかのようなロイヤルファミリー寿司だ。

 

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値段は2017円

おわかりだろうが今年の西暦と同じだ。

つまり、毎年一円づつ上がるという変動相場制である。

ハワイが毎年一センチづつ日本に近づいている制度を取り入れたのだ。

 

そう、そんな壮大でスペクタクル感を出している恵方巻を男は仕事を終えてから

北北西に向かって口にぶち込んでいた。

 

顎がはずれるかはずれないか、そのギリギリの戦いが恵方巻の醍醐味のひとつだ。

男もまたその醍醐味に生まれてから37回も挑戦し、今年も無事に外れずに噛みしめた。

その瞬間、彼の口の中では多くの高級食材が下の上でのたうちまわり、味覚を超越した。

まず、口の中で恋ダンスならぬ「味ダンス」を踊り始めたのは魚類界の星野源というべきフグだった。

♪♪海苔の中

 フグを食べたら色めき

 シャリたちは運ぶわ

 福寿と幸せの群れ

 

 味なんか

 ないさ想いがあるだけ

 ただ飯の一部で

 腹の中に落ちるんだ

 

 二口も食べたらふと

 くわえて思うことが

 飽きが生まれるのは

 三口から

 

 口の中にあるもの

 いつか噛めなくなるもの

 それは腹にあること

 いつも思い出して

 腹の中にあるもの

 シャリの中にある具材

 味がしたの貴方の

 巻の具合 海苔の香り

 細巻超えてゆけ

 

 作詞:男 作曲:星野源

 

海鮮界の星野源「ふぐ野源」が歌い、さながらその細いおみ足は海鮮界の新垣結衣ともいうべき「新カニ結衣」が可愛らしい味で舌の上で踊りはじめた。

そして、ヌルヌル界の古田新太こと「ウナ田新ギ」のシブさがフグとカニの味心をいい感じでかき乱す。そして、磯界の石田ゆり子「石田うに子」が爽やかに二人の味を見守る。いい味で関係ない問題をまき散らす魚卵界の藤井隆「数井の隆子」もなんだかんだ叫んでる!!

そして、そんな彼らをその輝くまでの男前感で5秒に一回攻撃してくるのが海鮮界の大谷亮平こと「いくら谷亮平」だろう。主張が強すぎていつも主役を食べようとするその存在がいるからこそ主役が輝くのだ!!

 

スイカの甘味が欲しいなら塩をふれ!

と昔の人はよく言ったものだ。

 

そう、今、男の口の中では、

SUSHI TV系列ドラマ「食べるは幸だが腹は持つ」の第一話が放送されていた。

 

果たしてその結末わ!

 

男は自分の願いを込めるでもなく、ただただフグ男とカニ子の味心を応援するためだけに今年の恵方巻を噛みしめて節分もふけるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

フグはなんで海にいるのに河の豚?

食べ歩き

シト、、頬に落ちた雨の始まりが足早に道を急がせた。

 

今夜は会社の社員を集めた新年会だ。

皆がタクシーで向かった中、男だけは走ることを選び、、皆よりも先に出た。

 

20分ほど走ると大きな赤提灯と赤い看板が煌々と光るフグ料理屋に到着した。

 

古めかしい昭和ながらの作りで、老夫婦がこのシーズンだけ営む歴史あるお店だ。

 

母(我が社の社長)はフグと言えばこのお店が大のお気に入りだ。

≪ふぐっこ≫およそ70歳代の老夫婦お二人がつけた名前にしてはとても可愛らしい名前である。尼崎市の富松神社の近く、住宅街にひっそりあるその佇まいは道沿いにありながらも昔からあり続けるお店がゆえにもはや風景となりつつあるお店は名を聞いても知るものほとんどいないだろう。

現に男も以前は飲食店で長い間働いていたにも関わらず去年の冬に社長に連れていかれて初めてその存在を知ることとなった。

このシーズンはフグ!とりあえずフグ!鍋と言えばフグ!やはり昭和生まれイコール鍋を食べるならフグなのでしょうか?

 

スリガラスに木枠をはめ込んだだけの立て付けが悪くなった入口の扉は隙間風を温かいであろう部屋の中にヒューヒューと一生懸命運んでいた。

両手で勢いよく開けると、老夫婦の元気な「いらっしゃいませ」が店内を駆け巡った。

平日の夜、フグというチョイスのお店にも関わらず店内は満席であった。

作業服を着た男たち、恰幅のいい土建の社長感むき出しのおっちゃん、、、

やはり土建の社長はまだまだバブリー感むき出しなんだろうか???

 

そして、ここにもバブリーなフグを食べに来たグループがいた。

我が社だ!!そして、その男だ。

「すいません、生ひとつ」

男の声を「は~い」と決して飾らず、決して急がない自然体むき出しな動きで運ばれてきた生ビールはすでに泡が崩壊して以前働いていた居酒屋なら説教ものだ。

それでも黄色と白のコントラストに年を重ねたからこそ出せる愛情色が加わり、

いつもの生ビールより美味しく感じた。

 

数々のテーブルで上がる白い湯気が部屋の温度を一度また一度とあげ、その熱さが冷えたビールをよりおいしくさせた。

ビールのうまさを堪能しながらも、目の前にどんどん運ばれてくるフグコースの料理は

どれでキラキラしていた。

≪フグ皮湯引き≫はサメ肌を感じることことなく丁寧な仕事を感じることができる舌触りと

噛めば噛むほど味わいが増す歯ごたえはグミよりも噛みごたえが高く、チューインガムよりも短時間の口さみしと幸福感を同時に満足させてくれた。

 

湯引きでひしめいた幸福感は次の口さみしさを誘発し、何かを口に入れたい衝動に刈られた。と、同時にフグばあちゃんが運んで来たのは≪フグと白菜のサラダ≫だ。

白菜の外側は大きめに切り鍋用に使い、中心の柔らかい部分は刻んで生のままサラダに引用するところはちゃんとフグ料理をわかっている証拠だ。

刻んだ白菜の中心部分を小皿に盛り、さらに細かく刻んだ湯引きはキラキラと宝石のように輝き、その上に乗せられていたのはフグの肝だ。自家製の胡麻ドレッシングで和えられたそのサラダは70歳代とは思えぬ感性でオシャレに盛り付けられていた。

実食!!!先ほどの湯引きがさらに細かくなり、プチプチ感が口中を占領、と同時にそのプチプチ感は奴の濃厚な味わいで一瞬でかき消された。肝だ。鳥のレバーよりもアッサリして、フォアグラよりも味わい深く、白菜の甘味とシャキシャキ感が癖があるかもなんて思わせていた偏見をいっぺんさせた。すべての美味しい部分を同時に感じるこの状況はまるで恋と愛を同時に感じるまれなケースだ!しかし、受け入れられずまた一口、そしてまた一口理解するために口に運。 

 

しかし、男は理解した。理解するほうがおかしいということを理解した。

そもそも男はまだ恋と愛を理解していないことを悟った。

 

そんな中、事務員さんが作ってくれていたてっちりが出来上がったようだ!

「テッポウ」+「ちりとり」=「てっちり」というのが語源であるという男の小ネタも店内の活気と生ビールを運んで来たおばあちゃんのグッドタイミングでかき消された。

 

グツグツの鍋の中から肉厚のフグ身を取り出し、自家製むき出しの柑橘の香り漂うポン酢にしっかりと漬け口へと運んだ。

 

うまい。ポン酢がうまい。

はっきり言います。男は昔から一つだけ思っていたことがあった、、正直食べているフグが上物かどうかはわからない。だってポン酢の味しかしないもん。フグがおいしいのではない。ポン酢がおいしいのだ。だからてっちりを食べる際は毎回その状況をごまかすために毎回言う言葉が彼にはあった。

 

「うまい!」

 

そう、この一言で、何がうまいかわからない。

まさに料理界の魔法の言葉である。

 

そんな時に運ばれてきたのが≪フグの唐揚げ≫だ。

男はコースの中でもこれが一番好きだった。厳密にいうとフグの唐揚げではなく、そこに付いている≪フグの皮の唐揚げ≫が好きだったのだ。

湯引きよりも少し太めにカットされたフグ皮は熱を通すことでコリコリよりも噛みごたえが増し、何回でも何回でも噛むことができた。上下の歯をかみ合わせることで皮が醸し出す味わいは深く、そして深く。こんなにも男が噛みしめたことがあるのは青春だけであろう。

覚えておいていただきたい。青春とフグ皮の唐揚げは噛めば噛むほど味わい深く、より洗練されることを。男は誰に語るでもなく、心で自分自身に語り掛けていた。

 

何度も何度も男はバカのひとつ覚えみたいにもう遠き青春を口の中でかみしめた。

 

そんな青春真っ只中の男をよそ目にすでに鍋の中は空になり、おばあちゃんによって通称、炭水化物界のダイヤ≪雑炊≫へと形を変えていた。

角もなく丸みを帯びた米たちはすでにキャラット測定不能である。

もうすでに腹がいっぱいなのに目の前に突き付けられた今しか手に入らない高級ダイヤを食べないバカはこの世にはいないだろう。

お茶碗にきれいに盛り付けられたダイヤを口に運んだ。

もう何も言う必要はない。

最高のダイヤを目の前にした超大金持ちはいちいち「キレイ」などと言って買うだろうか?答えは否だ。

そう、男は芦屋六麓荘に住むマダムのように何も語らずただただ食べた。

 

そして、フグの世界を堪能しつくした男は新年会で何を話していたかなど一ミリも覚えておらず、ただただフグと二人の世界を楽しんだ。

お会計を終わらせると会は離散。帰るまでが新年会!そんな気持ちで笑顔たちは離散して家路についた。

 

男は一人、徒歩で家路を急ぎながら思った。

 

本当はチゲ鍋が好っきゃねん。

 

明日は何が起こるかな~。現実に非現実を求めてまた旅立つのだった。